|
SHINOBAZUコラム77
2003.10.24
清宮質文・初めてのコレクション
小倉 敬一
清宮質文「夢の中へ」
1983 木版画
|
1991年5月、木版画家・清宮質文は亡くなった。その後、1994年練馬区立美術館で駒井哲郎との二人展が開かれ、1997年には神奈川県立近代美術館で待望の清宮質文展が開かれた。そして、2000年にも小田急美術館で清宮質文展が開催された。
そのつど、清宮質文の作品を初めて目にする人など、多くの人々に深い感銘を与え、その評価は徐々に高まっていった。清宮質文の作品は控え目であり、地味である。決して声高に自己主張はしない。そこには、しみじみとした叙情性・詩情が感じられる。だが、それだけではない、深く澄んだ独自の精神世界がある。見る人は、その世界に引き込まれ、残照のような余韻が心に残るであろう。
私は清宮質文の作品を、ささやかながら収集している。それは、1993年銀座の画廊で、妻と一緒に見た蝋燭の小さなガラス絵から始まった。その絵は透明な青が美しかった。炎さえ青であった。妻は釘付けとなり、その絵のほうにぐいぐいと引き寄せられると話していた。
その年の9月、当時、青山にあったミウラ・アーツで数多くの清宮質文の木版画を見せていただいた。私は、かつてなかった感動を受け、清宮質文の世界にすっかり引き込まれていった。
その日、購入したのが「夢の中へ」である。この版画は、清宮質文の可愛がっていた猫が死んでしまい、その死を悼んで制作したものである。猫は皿に座って空中に浮かんでいる。そして、猫は透明なガラスの棺の中に入り、その上には大きな宝石が輝いている、という不思議な絵である。
猫の表情は愛らしく、目が特にかわいい。視線は下界を向いているようである。天国に昇りながら、「皆さん、お世話になりました。みんな元気で生きていってね。寂しがらなくていいよ、天国で待っているからね。」と言っているような気がする。猫の上に輝く宝石は死者の魂であり、手向けの意味があったそうである。
前述したように2000年2月、小田急美術館で清宮質文展が開かれた。展覧会には私の所蔵品も2点出品された。それは妻が召天した翌月のことであった。その展覧会を見られず、妻が逝ってしまったことは残念である。
しかし、清宮質文の絵は今も私の心をなぐさめてくれる。
TOPページへ戻る
|